被相続人が外国人(外国籍)のときの相続|本国法や相続税に関する注意点

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本記事の内容は、原則、記事執筆日(2021年2月25日)時点の法令・制度等に基づき作成されています。最新の法令等につきましては、弁護士や司法書士、行政書士、税理士などの専門家等にご確認ください。なお、万が一記事により損害が生じた場合、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。
被相続人が外国人のときの相続
被相続人が外国人(外国籍)のときの相続|本国法や相続税に関する注意点

法務省入国管理局によると、平成30年末の在留外国人数は約273万と過去最高の数字を記録しました。新型コロナウイルス感染症拡大の影響などもあり、令和2年6月末に公表された最新データでは在留外国人数の総数自体は減少しましたが、永住者(在留外国人の1/4以上を占める)の数は増加を続けています(約80万人、対前年末比で+1.0%)。

この傾向を見るに、国内での遺産相続において、被相続人が外国籍をもつケースは今後より身近になっていくことが想定されます。

この記事では、外国籍をもつ方が亡くなったときに、遺産を相続する際の手続きのポイントや注意すべき点について紹介します。

記事を3行で先読み!
この記事はこんな方におすすめ:
外国籍をもつ方が亡くなったときに、遺産を相続する可能性がある方

  • 被相続人のもつ国籍に日本国籍が含まれている場合は、日本の法律に準拠して相続をおこなう
  • 被相続人が外国籍をもつ場合も相続税が課されることがある
  • 被相続人の国籍に関係なく日本国内の不動産の相続には相続登記が必要

相続において重要なのは被相続人の国籍

相続の際に適用される本国法を特定するには被相続人の国籍(常居所)を確認する。

日本における国際相続(国際的な要素を含む相続)では「被相続人」を基準に適用される法律(準拠法)が決まります。法の適用に関する通則法の第36条では、「相続は、被相続人の本国法による」ことが定められています。相続手続きの内容を決定づけるのは被相続人の国籍であり、相続人の国籍や居住地は大きな影響を及ぼしません。

被相続人が複数の国籍を有する場合に適用される本国法

被相続人が複数の国籍を有する場合の相続における本国法(準拠法)について、「法の適用に関する通則法」第38条では下記のように定義されています。

  • 有する国籍のうちのいずれかが日本の国籍であるとき:日本法
  • 国籍を有する複数の国のうち、常居所を有する国があるとき:常居所を有する国の法
  • 国籍を有する複数の国のうち、常居所を有する国がないとき:当事者に最も密接な関係がある国の法

また、被相続人の本国法に従うと、日本法が適用されることもあります(法の適用に関する通則法の第41条)。被相続人の国籍、あるいは常居所を確認し、相続の際に適用される本国法がどこの国の法律になるかを調べましょう。その際、被相続人が有する国籍の中に日本が含まれる場合は、日本法が適用される点に注意が必要です。

TIPS

常居所とは?

常居所の定義にはっきりしたものはありませんが、一般的には「人が居所よりは 長期の相当期間にわたり常時居住する場所」を意味するとされています。住所や戸籍の定義が国によって異なるために生じる問題を解決するために、ハーグ国際私法会議において創出された、国際私法上の概念です。

被相続人が外国籍の場合も相続税が課されることがある

被相続人・相続人の住所、相続人の日本国籍の有無および相続財産の所在地などによって、相続税がかかるケースとかからないケースがあります。

被相続人が日本人であるときと同様に、被相続人が外国籍の場合も、遺産額が基礎控除額を超えるときは相続税が課されます。相続税の申告・納税の期限も、日本国内の相続と同じく、被相続人の死亡したことを知った日の翌日から10ヵ月です。

被相続人が外国人(外国籍)の場合の相続の注意点

遺言の成立及び効力は、遺言者の本国法による。

遺言書が被相続人の本国法に基づく方式でも認められることがある

「法の適用に関する通則法」第37条では、「遺言の成立及び効力は、その成立の当時における遺言者の本国法による」とされています。そのため、遺言書が日本とは異なる形式であっても、下記のいずれかに準拠する方式であれば有効性が認められます。

  • 行為地法
  • 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時国籍を有した国の法
  • 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時住所を有した地の法
  • 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時常居所を有した地の法
  • 不動産に関する遺言について、その不動産の所在地法

「遺言の方式の準拠法に関する法律」第2条

法定相続分が日本と異なることがある

「相続において重要なのは被相続人の国籍」に記載したとおり、被相続人が日本国籍をもたない場合は、被相続人が「常居所を有する国の法」、あるいは「当事者に最も密接な関係がある国の法」が本国法として扱われます。国によって法定相続人の範囲や法定相続分(法定相続人の順位によって変わる相続割合)は異なることがあるため、個別の確認が必要です。

TIPS

被相続人(外国籍)の戸籍に婚姻届出の記載がない場合、婚姻関係は有効?

【被相続人が外国籍、その配偶者が日本人の場合】被相続人(外国籍)の戸籍に婚姻届出の記載がなかったとしても、配偶者(日本人)の戸籍に婚姻届出の記載があれば、婚姻関係が認められ、被相続人の配偶者(日本人)は法定相続人に該当することになります。

出典:国税庁HP
外国人である被相続人の日本人妻と相続税法第15条第2項に規定する法定相続人

日本国内の不動産の相続には相続登記が必要

前述のとおり、被相続人が日本国籍をもたない場合は、被相続人の常居所がある国などの法(本国法)に従って相続手続きがおこなわれます。しかし、日本国内の不動産の相続登記に関しては、日本の不動産登記法が適用されます。相続の際は相続登記が必要になる点に注意が必要です。

相続税の計算時に国外の財産は邦貨に換算する

相続税を計算するときは、外貨建ての財産や国外にある財産※を邦貨に換算する必要があります。この場合の邦貨への換算レートは、原則として課税時期(被相続人の死亡の日)の対顧客直物電信買相場(TTB)などに従います(財産評価基本通達4-3(邦貨換算))。

※国外にある不動産は日本の路線価方式などによる評価がおこなえないため、売買実例価額、精通者意見価格等をもとに価額を算出します(財産評価基本通達5-2(国外財産の評価))。

TIPS

対顧客直物電信買相場(TTB)とは?

金融機関が顧客から外貨を買って邦貨を支払う場合の相場を指します。課税時期(被相続人の死亡の日)に該当する相場がないときは、なるべく近い日付の相場を採用します。

出典:国税庁HP「No.4665 外貨(現金)の邦貨換算

遺産分割が相続税申告期限に間に合わないとき(未分割遺産の扱いについて)

相続税の申告期限(被相続人の死亡から10ヵ月)は延長できない

被相続人が外国籍をもつ場合、財産がある場所や法定相続人の数・居住地などによって、手続きの工程が複雑になり、遺産分割に時間を要することがあります。しかし、相続税の申告期限は延長できません。

遺産分割が間に合わないときは先に相続税総額を計算、申告・納税する

遺産分割が相続税の期限に間に合わないときは、各共同相続人が当該財産を取得したものとして課税価格を計算し、先に相続税の申告・納税をおこないます。相続税総額の計算は日本の民法の規定(法定相続人・法定相続分)を基に計算します(相続税法第55条「未分割遺産に対する課税」)。

実際の課税額が当初の計算と異なるときは、後から更正の請求が可能

その後、遺産分割をおこない、相続人が実際に取得した財産の課税価格が、当初計算した課税価格と異なる場合は更正の請求により相続税の申告内容を修正できます(相続税法第55条「未分割遺産に対する課税」)。

未分割遺産の各人の課税価格の計算は被相続人の本国法に従う

被相続人(外国籍)の未分割遺産に関し、各人の課税価格の計算は、被相続人の本国法の規定(法定相続人・法定相続分)を基に計算します。相続税総額のときと準拠する本国法が異なる場合があるため、注意しましょう。

  • 相続税総額の計算→日本の民法の規定に従う
  • 未分割遺産の各人の課税価格の計算→被相続人の本国法に従う

出典:国税庁HP「被相続人が外国人である場合の未分割遺産に対する課税

まとめ

相続手続きの内容を決定づけるのは被相続人の国籍です。

被相続人が外国人(外国籍)の場合、本国法で規定される内容によって法定相続人の範囲や法定相続分に違いが生じます。相続をおこなう際は、該当する本国法の確認・内容理解や、国際相続に関する知識や、実務経験が欠かせません。そのため、国内で完結する相続に比べ難易度は格段に高く、自力で手続きをやり遂げることは困難です。

こういったケースでは、ご自分で対処できないトラブルが発生する前に、国際相続に精通した専門家への相談をおすすめします。

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