相続税と贈与税の違い|生前贈与をする・しない、トータルで税負担が少ないのはどっち?

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本記事の内容は、原則、記事執筆日(2021年2月26日)時点の法令・制度等に基づき作成されています。最新の法令等につきましては、弁護士や司法書士、行政書士、税理士などの専門家等にご確認ください。なお、万が一記事により損害が生じた場合、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。
相続税と贈与税の違い
相続税と贈与税の違い|生前贈与をする・しない、トータルで税負担が少ないのはどっち?

生前贈与には高い贈与税がかかるというイメージをお持ちではないでしょうか。確かに税率だけ比較すると、贈与税は相続税よりも高いです。

しかし、工夫次第では相続税を支払うよりも負担を軽くできる場合もあります。

この記事では、生前贈与をした場合としない場合で税負担にどのような差が生じるかをシミュレーションし、生前贈与により贈与税と相続税トータルでの負担を軽くできる方法を解説しています。

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この記事はこんな方におすすめ:
生前贈与が得なのか、損なのかを知りたい方

  • 生前贈与を上手に活用すれば、税負担はトータルで軽減できる
  • 生前贈与をした方がよいのか?ーポイントは贈与できる期間と贈与税の負担率(実効税率)
  • 控除や特例などの適用で、税負担は大きく変わる

相続税と贈与税

相続税と贈与税はともに個人から個人に譲渡された財産に対して財産を受け取った人にかかる税金で、いずれも相続税法で規定されています。贈与税は生前贈与により相続税の課税を逃れようとするのを防ぐという意味で、相続税の補完税ともいわれます。

相続税・贈与税のシミュレーション

相続税と贈与税の違い

それでは次のような条件の場合、生前贈与の有無でどのような差が出るのか計算してみましょう。

  • 被相続人:父親(配偶者はすでに他界)
  • 相続財産の総額:1億円
  • 相続人:子ども2人(いずれも成人)

※相続時に小規模宅地等の特例等の適用はないものとする
※贈与は子ども2人に年間500万円ずつ2回おこなう(相続開始前3年以内の贈与には非該当)
※贈与以外で資産の増減はないものとする

生前贈与しなかったとき

まず、生前贈与をおこなわなかったときは1億円がそのまま相続財産となるため、相続税は次の通り算出されます。

1億円-4,200万円(基礎控除)=5,800万円
5,800万円÷2人×15%(税額)-50万円(控除額)=385万円
385万円×2人=770万円(相続税の総額)

生前贈与したとき

次に、生前贈与した場合の贈与税と相続税を計算してみましょう。

贈与税額

500万円-110万円(贈与税の基礎控除額)=390万円
390万円×15%(税率)-10万円(控除額)=48.5万円
48.5万円×2人×2回=194万円(贈与税の総額)

相続税額

1億円-2,000万円(贈与済財産)-4,200万円(基礎控除額)=3,800万円
3,800万円÷2人×15%(税額)-50万円(控除額)=235万円
235万円×2人=470万円

シュミレーションの結果

生前贈与しない場合:770万円(相続税)

生前贈与した場合 :194万円(贈与税)+470万円(相続税)=664万円

2人の子どもの合計税額は、生前贈与しなかった場合770万円なのに対し、生前贈与した場合は664万円。その差は106万円となります。

このように、相続財産の額、贈与する金額と回数(期間)によっては贈与税を支払ったとしても相続税とのトータルで税負担を軽くすることが可能です。

TIPS

【注意】

上述のシミュレーションでは、贈与以外で資産の増減はなく、相続税・贈与税とも、基礎控除以外の控除や特例の適用はないものとして計算しています。 また、贈与税の計算には特例税率を使用しています。 実際の相続・贈与においては、法定相続人の人数・配偶者の有無、受贈者の続柄・人数、贈与できる期間が大きく影響します。 また、資産額の変動、基礎控除以外の税額控除やさまざまな特例の適用により、負担税額が増減することも予想されます。 生前贈与を検討する際には、贈与できる期間、受贈者数および資産額の変動などを考慮して贈与額を算出し、適用可能な控除や特例などを反映して税額シミュレーションをしてみることが必要です。

相続税で使える控除や特例

相続財産に対して一律で税金が発生すると、残された家族のその後の生活に支障が出ることがあります。

このため、相続税には先に紹介した基礎控除の他に、配偶者控除や未成年者控除など、相続人ごとの事情や状況に合わせて控除や特例を適用することができます。

配偶者の税額軽減

配偶者は、相続により取得した財産の合計額が1億6,000万円か法定相続分相当額のどちらか多い金額までは相続税がかかりません。

未成年者控除および障害者控除

相続人が未成年者の場合、相続税の額から以下の金額が控除されます。

控除額=10万円×その未成年者が満20歳になるまでの年数

法定相続人であることが要件であるため、孫養子や代襲相続人となる孫については適用されますが、遺言により遺贈される法定相続人以外の孫には適用されません。

相続人が85歳未満の障害者のときは、相続税の額から次の金額を差し引くことができます。

  • 一般障害者:10万円 × その障害者が満85歳になるまでの年数
  • 特別障害者:20万円 × その障害者が満85歳になるまでの年数

未成年者控除と障害者控除は適用要件を満たせば併用が可能です。

また、控除しきれない金額がある場合は、その扶養義務者の相続税額から控除することができます。年数の計算にあたっては、1年未満の年数は切り上げて1年として計算します。

相次相続控除

過去10年以内に2回以上の相続があった場合は、最初の相続でかかった相続税の一部を2回目の相続税から差し引くことができます。

贈与税額控除

相続や遺贈により財産を取得した人が、故人から相続開始前3年以内に贈与された財産は相続財産に加算されるため、贈与時に支払った贈与税がある場合は、相続税から差し引くことができます。

小規模宅地等の特例

被相続人が住居や事業用に使っていた土地は、一定の基準を満たせば小規模宅地等の評価減の特例を適用することができます。

中でも被相続人が居住用に使用していた宅地は高い評価減を受けることが可能です。配偶者及び同居の親族、または持ち家のない別居の親族が相続する場合、要件を満たせば330㎡まで80%の減額となります。

贈与税で使える控除や特例

贈与税には、配偶者に自宅を譲ったり、若い世代へ資産を承継し有効活用するための控除や特例があります。

利用できる場面は限られますが、通常の贈与と合わせて活用することで、より大きな額の相続財産を減らすことが可能です。

配偶者への自宅の贈与は2000万円まで非課税

相続_配偶者

婚姻期間が20年以上の夫婦間で自宅または自宅の購入資金の贈与をおこなった場合、2,000万円までは贈与税が非課税になります。

この特例により贈与された財産は、贈与から3年以内に贈与した側の配偶者が亡くなった場合にも相続財産に加算する必要がないというメリットもあります。

ただし贈与では、小規模宅地等の評価減が使えない、不動産取得税や登録免許税の優遇がないなどのデメリットもあるため、相続税対策としては十分な検討が必要です。

子どもなどへの住宅購入資金は一定額まで非課税

両親や祖父母などから20歳以上の子どもや孫などに自宅の購入資金の贈与を行ったときは、一定額まで非課税になります。

非課税となる額は契約した年や省エネ住宅か否かで変わるため、詳しくは国税庁ホームページの「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」にてご確認ください。

孫などへの教育資金は1,500万円まで非課税

30歳未満の子どもや孫などへの教育資金として、両親や祖父母などが金融機関に預入を行った場合、1,500万円(学校以外へ支払う場合は500万円)までは贈与税が非課税となります。

子どもなどへの結婚・子育て資金は1,000万円まで非課税

20歳以上50歳未満の子どもや孫などへ結婚・子育て資金として両親や祖父母などが金融機関に預入を行った場合、1,000万円(結婚資金は300万円)までは贈与税が非課税となります。

相続時精算課税制度は2500万円まで非課税

相続時精算課税制度は、同じ贈与者と受贈者の間であれば生涯に2,500万円までは贈与時に贈与税がかからず、相続時に相続財産として課税する制度です。

60歳以上の親や祖父母から成人した子どもや孫へ贈与する際に利用でき、2,500万円を越えた分については一律20%の贈与税がかかります。

相続財産に加算する際は、相続時ではなく贈与時の価格で評価するため、価値の上がる財産や収益物件などを贈与すると相続時の税金を減らす効果があります。 一方で、相続時精算課税制度を利用すると同じ贈与者と受贈者の間では暦年課税制度の110万円の非課税枠は使えなくなります。

相続税と贈与税に関するQ&A

ここからは、相続税と贈与税に関するよくある質問にお答えします。

Q:贈与税がかからない年間110万円までの贈与の方がお得では?

生前贈与というと、毎年110万円までは贈与税が非課税となるのを利用した暦年贈与がよく知られています。長い期間をかけてコツコツと贈与することで節税効果が得られるため、早い時期からの相続税対策に向いています。

反対に、短い期間で相続財産を減らしたい場合であれば、贈与税を支払ったほうがトータルで税負担が軽くなる場合もあります。

例えば、前述のシミュレーションの生前贈与の金額を「500万円×2人×2回」から「110万円×2人×2回」に変えた場合、贈与税は非課税となり、相続税は次のようになります。

1億円-440万円(贈与済財産)-4,200万円(基礎控除額)=5,360万円
5,360万円÷2人×15%(税率)-50万円(控除額)=352万円
352万円×2人=704万円

110万円ずつ贈与した場合は、贈与が行われなかったときの770万円と比べると税負担は軽くなりますが、500万円ずつ贈与を行ったときの664万円よりは支払う税金が多くなります。

ただし、これは贈与を2回(2年)とした場合の計算例であり、長い期間をかけて贈与できるのであれば、贈与税がかからない金額で贈与した方が、税負担を減らせることもあります。

例) 生前贈与の金額・回数を「100万円×2人×10回(合計贈与額2,000万円)」とした場合

贈与税:0円
相続税:
1億円-2,000万円(贈与済財産)-4,200万円(基礎控除額)=3,800万円
3,800万円÷2人×15%(税額)-50万円(控除額)=235万円
235万円×2人=470万円

合計税額は470万円となり、税負担はさらに軽減されます。

このため、節税のために生前贈与を検討するのであれば、贈与できる期間、贈与する人数や資産額などを考慮したうえで、贈与金額を決定するのが良いでしょう。

Q:相続税対策として生前贈与をした方がよいとなる目安は?

贈与税の負担率を目安の1つとすることができます。

負担率は実効税率とも呼ばれ、取得した財産の価額に対する、税金の割合のことをいいます。

贈与税の負担率(実効税率)=贈与税額÷取得した財産の価額

例えば、年間500万円の贈与を2回(合計1,000万円)受けた場合の贈与税の負担率は次のようになります。

500万円-110万円(贈与税の基礎控除額)=390万円
390万円×15%(税率)-10万円(控除額)=48.5万円(1回分の贈与税額)
48.5万円×2÷1,000万円(合計贈与金額)=9.7%(負担率)

贈与された財産の合計額1,000万円に対する贈与税の合計額は97万円なので、負担率は9.7%となります。

相続税がかかる場合は最低でも10%となるため、この金額であれば相続より贈与の方が税負担が軽いことがわかります。

相続税と贈与税とでは基礎控除の金額も税率も異なり、かつ財産の価額が高くなるほど税率が上がる累進税率を適用しているため単純比較は困難ですが、負担率を比較することで、生前贈与による節税効果の有無を判断する際の目安とすることができます。

Q:節税のための生前贈与をどの程度すればよいかわからないときは?

相続税の節税のために生前贈与をおこなう場合は、まず財産の総額を出したうえで適用できる相続税の控除額や特例等も把握する必要があります。また、財産の種類や金額によっては生前贈与ではなく相続で引き継いだ方が良い場合もあります。

生前贈与について具体的に検討したい場合は、税理士に相談してみてはいかがでしょうか。

税理士に相談することで、生前贈与を含めた総合的な相続税対策についても提案してもらうことが可能です。

まとめ

贈与税を支払ってまで贈与するのはもったいないというイメージが強いですが、相続時に相続税がかかる場合は、贈与税がかかっても生前贈与したほうが得なこともあります。

また、生前贈与による相続税対策のポイントは次の通りです。

  • 贈与できる期間が長いほど、非課税で贈与できる金額はふえる
  • 贈与時の税負担率が、想定される相続税率を下回る金額以内であれば節税効果がある
  • 生前贈与をおこなう前には、財産の総額に加えて相続時にどのような控除や特例が適用されるか把握しておく

生前贈与をおこなう場合は贈与契約書を作成する必要があります。また、暦年課税で1年間に贈与された財産の合計が110万円を越す場合は、税務署への申告が必要です。

このような手続きを自分でおこなうのが不安な場合は税理士に依頼すると良いでしょう。

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