遺言信託、民事信託、家族信託の違いとメリット・デメリット

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本記事の内容は、原則、記事執筆日(2021年1月8日)時点の法令・制度等に基づき作成されています。最新の法令等につきましては、弁護士や司法書士、行政書士、税理士などの専門家等にご確認ください。なお、万が一記事により損害が生じた場合、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。
家族信託、民事信託、遺言信託
遺言信託、民事信託、家族信託の違いとメリット・デメリット

相続に関する解説書やパンフレットを読んでいると、しばしば「遺言信託」というキーワードを目にします。一般的には、信託銀行などの信託会社が提供している「遺言信託サービス」を指すことが多いようですが、実はそれ以外にも重要な意味が含まれているのです。

例えば最近、相続対策のひとつとして注目されているのが「民事信託」「家族信託」です。

自分の財産を信頼できる人に管理・運用してもらって、その利益を自分の指定した人に渡すというのが基本的な仕組みですが、この仕組みを利用することで、自由で柔軟な財産承継を行うことができます。そして、その信託の設立は遺言で指定することができるのです。

今回は、主に民事信託の仕組みやメリット・デメリットを見ていくとともに、信託銀行が行っている「遺言信託サービス」についてもご説明します。

遺言書の効力を補完する民事信託

相続対策というと、相続税の資金を確保するための対策を立てたり、相続の際に発生する税金をできるだけ抑えようと節税の方法を模索することを連想する人が多いと思いますが、それ以前に重要なのは「財産を誰に、どのように引き継がせるか」を決めることです。

例えば、大きな自宅、賃貸用オフィスビル、賃貸マンションなど、財産が容易に分割できない資産であった場合、遺産分割をめぐる相続トラブルが起こる可能性が増します。

遺言書は、そのようなことが起こらないよう、遺産分割に対する本人の意思を伝えるのに有効な手段です。書式などに誤りがなければ、法で定められた法定相続分より優先され、法的効力を持ちます。

しかし、そんな遺言書も万能ではありません。相続人による遺産分割協議において、相続人全員の同意があれば遺言書に書かれている方法とは別の方法で遺産を分割することができます。

また、相続人の中の1人に多くの財産が引き継がれるケースでは、ほかの相続人が最低限の相続を受ける権利(遺留分)を主張して、遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)をすることも考えられます。

こうした心配があるとき、有効な手段となるのが民事信託です。

親族間で信託契約を締結することで、法的な所有者は1人に決めつつも、経済的な利益を享受できる権利を複数の人たちで共有することができるのです。

民事信託の仕組み

自分の財産を信頼できる人に管理・運用してもらって、その利益を自分の指定した人に渡すというのが民事信託の基本的な仕組みです。

「信頼できる人」には、さまざまな人が含まれるでしょうが、それが家族や親類の場合は、家族信託と呼ばれ、それ以外の専門家などの人を含める場合、広義の民事信託と呼びます。

財産を渡す人を委託者、財産を託される人を受託者、利益を受けとる人を受益者といいます。また弁護士や税理士は、法規制によって信託の受託者とはなることができません。

父親が所有する賃貸マンションを長男と信託契約する場合

例えば、父親が所有している賃貸マンションを長男に信託するケースで考えてみましょう。

父親は「私の賃貸マンションを預かってください」と依頼し、長男が「わかりました」と承諾すれば、父親は委託者に、長男は受託者になります。

賃貸マンションの登記を行い、名義を長男に移転し、契約書を交わします。契約書は公正証書にしておくことが推奨されますが、これは後でこの契約によって不利益を受ける人などが契約書の無効を訴えてきたとき、その有効性を保証してくれるからです。

契約が成立後、賃貸マンションから生じた利益(家賃収入)には、別の人に受けとる権利(受益権といいます)が与えられます。家賃収入を受け取る権利を父親本人に設定することもできれば、次男や長女など、ほかの複数の家族に設定することもできます。

また、遺言によって信託を設定する際(遺言信託)には、父親の生存中は受益者を父親本人にしておき、その死後に受益権をほかの人(長男、次男、長女など)に移すこともできます。

これが、法的な所有者は1人に決めつつも、経済的な利益を享受できる権利を複数の人たちで共有する仕組みです。

民事信託のメリット

民事信託には、次のようなメリットがあります。

①「誰に、どのように残したい」という意思がそのまま受け継がれる

信託によって財産を預かった受託者は、設定した信託目的や信託契約内容に基づいて、その利益を受託者にわたすことができます。つまり、財産に対する自分の想いがそのまま実行されるのです。

従って、民事信託は認知症対策にもよく使われます。認知症や脳梗塞などで本人の判断能力が低下すると、相続対策に着手するのがむずかしくなりますが、元気なうちに信託を設定しておけば、その心配はなくなります。

②受託者が破産しても、信託財産には影響がない

信託には、倒産隔離機能というものがあります。仮に委託者が破産したとしても、信託財産に影響はありません。信託財産の名義を持つ受託者が破産したときも同様で、信託財産は影響を受けません。

つまり、自己の財産から優良な資産を切り分けて管理運用することができるのが、信託の強みなのです。

③受益者を2代、3代先まで決めることができる

遺言書だと、1代先までしか相続する人を決められません。しかし、信託を設定すると最初に指定した受益者が亡くなってしまった場合でも、その次の受益者を誰にするかを指定することができるため、2代、3代先まで財産をのこすことができるのです。

民事信託のデメリット

次に、民事信託のデメリットについても見ていきます。

①身上監護の機能がない

民事信託は、認知症対策になるというメリットがありますが、そのほかの方法に任意後見制度があります。

任意後見制度とは、資産を持つ人が元気なうちに、自己が判断能力を失ったときに財産を管理する後見人を選定し、任意後見契約を結んでおく制度のこと。

後見人による財産管理は、家庭裁判所の監督下のもとで行われるため、本人の理想通りには活用しづらい面がありますが、身上監護といって、後見人は被後見人の生活、治療、療養、介護などについて看護し保護する義務を持っています。

一方、信託では、委託者が受託者にそのような義務を負わせることはできません。

②節税効果がない

信託の設定は、財産を他の人に移すことになりますので、設定と同時に課税対象になります。生前に信託設定をするときは贈与税、遺言によって信託設定するときは相続税がかかります。

③相続トラブルの可能性は完全にはなくならない

例えば、信頼していた受託者がずさんな管理をすれば、相続人の中から不満の声が上がって争議が巻き起こるという可能性はゼロになったわけではありません。

また、財産の名義が委託者から受託者に変わることに抵抗感を受け、抗議をしてくる人が親族の中にいることも考えられます。

信託も遺言書と同様、万能ではないのです。

まだ始まったばかりの民事信託制度

信託は、大正11(1922)年に成立した信託法によって生まれました。しかし、この法律は、主に信託銀行などの信託会社のために作られたもので、こんにち言うところの「民事信託」が実現したのは、平成19(2007)年の法改正によってです。その間の年月には、84 年の開きがあります。

この法改正の背景には、高齢者や認知症の増加によって財産管理がむずかしくなっていること、それに伴い、相続トラブルの件数も右肩上がりに増えていることなどがあります。

そうした現代社会の変化に対応するための法改正だったため、民事信託はそれほど長い歴史があるわけではなく、まだ充分に知られていないのが現状ですが、今後、利用する人は増えていくことが予想されます。

信託銀行が提供する「遺言信託サービス」でできること

さて、ここから先は遺言信託のもうひとつの側面、信託銀行などの信託会社が提供している「遺言信託サービス」について見ていくことにしましょう。

信託銀行とは、預金、貸付、為替などの銀行業務に加えて、信託業務と併営業務を行っている金融機関のこと。遺言信託サービスは、3つめの併営業務の範囲で行われている業務です。そのため、遺言信託という言葉には法的な意味や裏づけはありません。

また、信託銀行の遺言信託サービスの中には、それなりに高額な手数料がかかりますが、信託銀行が受託者となる商品もあります。これを遺言代用信託といいます。

信託銀行が遺言信託サービスで行っているのは、主に次のようなことです。

①遺言書作成の相談、アドバイス

遺言書に書きたい内容、相続人の範囲、財産の把握、財産の分割方法などについて、一定の知識を持った職員に相談し、アドバイスを受けることができます。

②公正証書遺言の作成の手伝い

遺言者が公証役場に行き、公正証書遺言を作成する際、2人以上の証人の立ち会いのもとで行われますが、信託銀行の職員に証人を依頼することもできます。

遺言者が亡くなった後、遺言を執行するための財産管理のいっさいの権利と義務を負う人のことを遺産執行者といいますが、遺言信託サービスでは、信託銀行が遺言執行者に指定されることが多いです。

③公正証書遺言の正本の保管

作成した公正証書遺言は、原本を公証役場に、正本と謄本を本人が持ち帰ることになりますが、そのうち正本を信託銀行に預けて保管してもらうこともできます。

④相続発生後は遺言執行業務を行う

相続発生(遺言者の死)後は、遺言執行業務を開始します。相続人などに協力をあおぎながら、遺産や借金などの債務を調査し、相続財産を一覧表にまとめた財産目録を作成します。

⑤所得税、相続税の申告および納付手続のサポート

亡くなった人の所得税の申告(準確定申告)は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヵ月以内、相続税の申告・納税は相続発生から10ヵ月以内に行わねばなりませんが、そうした作業を信託銀行はサポートしてくれます。

⑥遺産分割に関する手続きをサポート

遺産の管理・処分や不動産などの名義変更など、遺産分割に関する手続きを遺言書の内容に基づいてサポートしてくれます。

信託銀行の遺言信託サービスを利用するメリット

信託銀行が行っている遺言信託サービスを利用するメリットは、主に次の2つがあります。

①金融のプロとして、財産の運用・管理のアドバイスをしてくれる

遺産分割をめぐる紛争解決は弁護士、不動産の名義変更は司法書士、相続税の書類作成や申告代理は税理士という具合に、分野によっては特定の専門家の力を借りねばできないこともありますが、信託銀行の職員は金融のプロなので、財産の運用・管理については専門的なアドバイスをもらうことができるでしょう。

これまで利用してきたメインバンクが信託業務を行っている場合、財産管理を依頼するのはますます容易になります。

②遺言書の作成から執行まで、一貫して依頼することができる

遺言書の作成から執行までには、実にさまざまな手続きを踏まなければなりませんが、それらを一貫して任せることができるのは大きなメリットです。

遺言執行者は、未成年者と破産者以外ならば、家族や親族、専門家などに依頼することもできますが、個人ですので遺言者よりも先に亡くなってしまう可能性もありますが、信託銀行に指定しておけばそのような心配はありません。

遺言信託サービスのデメリットは高額な手数料

では、信託銀行の遺言信託サービスを利用するデメリットは何でしょう。

「信託銀行といっても、倒産する可能性はゼロではない」「紛争解決や不動産の名義変更、相続税の申告代理など、他の専門家でなければできないことがある」などが考えられますが、最も大きなデメリットは「手数料が高額」ということではないでしょうか。

大手信託銀行Aの「遺言信託サービス」を例にとって、その手数料を見ていきましょう。

遺言信託サービスの一例

当初の基本手数料を抑えた「プランⅠ」最終的な支払総額を抑えた「プランⅡ」
基本手数料33万円88万円
遺言書保管料6,600円(年間)無料
遺言信託変更手数料5万5,000円5万5,000円
遺言執行の最低報酬額110万円33万円

「プランⅠ」では、初期費用から遺言執行までの最低額が149万1,600円(これに保管料が毎年6600円加算される)。「プランⅡ」では、126万5,000円になります。

ちなみに、4項目の遺言執行の報酬が「最低額」となっているのは、相続財産の総額に応じて報酬の割合が変わるからです。

例えば、A社と契約中の預金・信託商品、窓口販売による投資信託・国債・保険商品などに対しては0.33%の遺言執行の報酬がかかり、その他の財産についても数千万円単位、数億円単位で報酬割合が設定されています。

従って、財産が多くなるのに比例して、遺言執行の報酬も多くなるわけです。

まとめ 

自分の財産を信頼できる人に管理・運用してもらって、その利益を自分の指定した人に渡すというのが信託の基本的な仕組みです。

信頼できる家族に頼む家族信託や、専門家などの人も含む民事信託など、信託のやり方にはさまざまなパターンがあります。

法規制によって、弁護士や税理士は信託の受託者とはなることができませんが、家族信託や民事信託の受託者となった人が、そうした専門家にアドバイスをあおぎながら受託者としての義務を遂行することは可能です。

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