家族信託|事前の話し合いから書類の作成、信託登記と信託口口座の開設までの流れ

更新日

本記事の内容は、原則、記事執筆日(2021年3月19日)時点の法令・制度等に基づき作成されています。最新の法令等につきましては、弁護士や司法書士、行政書士、税理士などの専門家等にご確認ください。なお、万が一記事により損害が生じた場合、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。
家族信託、信託登記と信託口口座
家族信託|事前の話し合いから書類の作成、信託登記と信託口口座の開設までの流れ

家族信託とは、認知症になったときや自分の死後の相続など、将来のさまざまな事柄に向け、信頼できる家族・親族を「受託者」(財産の管理・運用・処分をする人)として、財産を預ける仕組みのことです。この記事では、家族信託の具体的なやり方についてご紹介します。

記事を3行で先読み!
この記事はこんな方におすすめ:
家族信託の手続きの概要を知りたい方

  • 家族信託手続きでは、まず最初に目的と内容を決める
  • 家族信託契約書を公正証書にしておくと、公証人が契約の成立を証明してくれる
  • 信託口口座を開設しておくと、万が一受託者が信託事務をおこなえなくなって後継受託者が引き継ぐときに、口座も引き継ぐことができる

家族信託のおもな流れ

家族信託は、次のような流れでおこないます。

  1. 信託の目的と契約内容を決める
  2. 家族信託契約書を作成する
  3. 信託登記をする
  4. 信託口口座を開設する

手順1:家族信託の目的と内容を決める

家族信託契約の内容に不満のある家族がいると、争いの原因になることもあります。

家族信託の契約自体は委託者と受託者の間で同意があれば成立しますが、家族信託契約の内容に不満のある家族がいると、争いの原因になることもあります。トラブルを避けるため、最初に家族信託の目的と内容を定め、契約締結前に説明して家族の理解を得ておきましょう。

家族で話し合うべき内容の例

  • 受託者
  • 受益者
  • 後継受託者
  • 受益者管理人
  • 信託財産
  • 信託財産の管理・運用・処分の方法
  • 信託期間
  • 残余財産帰属先
  • 信託口口座を開設する金融機関(家族信託に対応しているところ)

不動産を信託財産にする場合

不動産を信託財産にするときには、受託者に名義変更する必要があります。住宅ローン等の抵当権設定契約により、不動産を担保にした借り入れがあるときに名義変更をおこなう場合は抵当権者(金融機関)の承諾が必要です。金融機関の承諾なしに名義変更をしてしまうと一括返済等を求められる可能性があります。必ず事前に相談するようにしましょう。

手順2:家族信託契約書を作成する

契約の内容が決まったら「家族信託契約書」を作成します。

契約の内容が決まったら「家族信託契約書」を作成します。ひな形が紹介されていることもありますが、契約書に決まった書式はありません。それぞれの目的・財産の内容・家族の状況に合わせた形で作成しましょう。

契約書に記す内容の例

  • 信託の趣旨(要点)
  • 委託者・受託者といった契約の当事者の個人情報(住所・氏名など)
  • 信託の目的
  • 信託財産
  • 契約の内容で決めた項目

信託財産について

財産の数が多くなる場合、信託財産目録を作成して家族信託契約書の添付書類にしましょう。このとき、預貯金は口座で指定せず、「金〇〇」円など金額を記載します。不動産は登記簿通りに記載してください。

家族信託は、契約の内容によっては、委託者が亡くなっても終わることなく長期に渡って続くものです。そのため、状況が変化しても対応できるように「信託財産の追加」「信託財産の変更」も条項に含めます。信託の目的から逸脱した追加や変更は認められないこともあるので注意しましょう。

家族信託契約書を公正証書にする

公正証書にすることは必須ではありませんが、おこなうことで以下のメリットがあります。

  • 公証人が契約の成立を証明してくれる
  • 家族信託契約書の原本が公証役場で原則20年保管される
  • 家族信託契約書の内容を確認してもらえる
  • 家族信託契約書の信頼性が増す

家族信託の契約内容によって不利益を被る家族がいると、後から契約の無効を申し立てられるようなことがありえますが、公正証書にしてあれば契約が有効であることを証明してもらえます。公正証書は、原則として公証役場で20年保管され、自分で保管しているものを紛失してしまっても写しを発行してもらえるので安心です。

家族信託契約書の詳細については、こちらの記事をご覧ください。

手順3:所有権移転登記・信託登記

不動産を信託財産とする場合は、所有権移転登記(不動産の名義を委託者から受託者へと変更する手続き)と信託登記(不動産を信託財産として明示するための手続き)の2つが必要になります。

不動産を信託財産とする場合は、所有権移転登記(不動産の名義を委託者から受託者へと変更する手続き)と信託登記(不動産を信託財産として明示するための手続き)の2つが必要になります。この2つの手続きは同時におこないます。

所有権移転登記・信託登記に必要な書類

  • 不動産の権利証(登記識別情報通知書)
  • 委託者の実印と印鑑証明書(発行から3ヵ月以内)
  • 固定資産税評価証明書
  • 受託者の住民票
  • 受託者の認印
  • 登記原因証明情報(家族信託契約書など)
  • 信託目録に記載すべき情報 など

登記にかかる税金

登記には、登録免許税という税金がかかります。

登録免許税の税額

  • 所有権移転:非課税
  • 信託登記(土地):固定資産評価額×0.3%
  • 信託登記:固定資産評価額×0.4%

信託登記の土地の税率が0.3%になっているのは租税特別措置法第72条によるものです(令和3年3月31日までの予定)。

登記をおこなう場所

登記は、不動産の所在地を管轄する法務局でおこないます。法務局へ出向くことや書類の作成が難しいときは、司法書士に依頼することも検討しましょう。

手順4:信託口口座を開設する

信託口口座を開設する手続きは金融機関によって異なります。

信託口口座を開設する手続きは金融機関によって異なりますが、一般的に必要になるものは以下の通りです。

  • 委託者の本人確認書類
  • 受託者の本人確認書類
  • 家族信託契約書
  • 受託者の届出印

信託口口座の開設手続きの際、金融機関が家族信託契約書を確認します。契約内容が承認されるか一部の変更で認められれば、口座の開設が可能です。

信託口口座を開設する利点

万が一受託者が信託事務をおこなえなくなって後継受託者が引き継ぐときに、口座も引き継ぐことができることがメリットです。

信託口口座が開設できなかったとき

準備をしても信託口口座の開設が認められないことがあります。その際は、信託専用の新規口座を受託者名義で開設して信託財産を管理しましょう。口座を作った後は、その口座が信託財産を管理するためのものであることがわかるように、家族信託契約書に金融機関名・支店名・口座番号を明記しておきましょう。信託専用口座の場合、契約書作成前に口座を開設する必要があります。

年金を信託口口座で受け取れるか

年金を受け取る権利(年金受給権)を、直接信託財産にすることはできません。年金は本人名義の口座しか振込先に指定できないため、信託口口座で受け取ることもできません。

自動送金を利用して年金を信託口口座へ送金する

そういった場合に、年金を信託口口座で管理したい場合は、いったん本人名義の口座で年金を受け取って、現金として信託財産に追加する(信託口口座へ送金)することを考えましょう。送金には自動送金が利用できますが、これは委託者自身が設定する必要があります。金融機関によっては一定の期間を過ぎると再設定が求められる場合があるので、注意が必要です。

自動送金の利用には追加信託契約が必要

自動送金を利用する場合は、信託財産が追加されることになるので、追加信託契約をしなければなりません。最初の信託契約に追加信託に関する条項を入れておきましょう。

ほかにおこなうべき手続き・確認事項

信託登記によって、建物の名義が受託者になるため、建物にかけている火災保険なども名義変更する必要があります。

火災保険などの名義変更

信託登記によって、建物の名義が受託者になるため、建物にかけている火災保険なども名義変更する必要があります。名義変更をしないでいると、損害を受けても保険金が給付されないこともあるので注意してください。手続きは保険の内容などによって異なりますので、保険会社に問い合わせましょう。

引落し口座の変更(必要な場合)

固定資産税や公共料金などの引落し口座を、委託者の口座から信託口口座(信託専用口座)に変更したい場合は、口座変更の手続きをおこないましょう。

受託者が税務署に提出すべき書類

受託者は家族信託の開始時・終了時に信託財産の種類や所在地、価額などを記載した「受益者別(委託者別)調書」と「受益者別(委託者別)調書合計表」を作成する必要があります。

受益者別(委託者別)調書、受益者(委託者別)別調書合計表について

  • 受益者と委託者が同じときや、信託財産の相続税評価額が50万円以下の場合には不要。
  • 家族信託が終了したら、必要に応じて翌月末までに提出する。

信託の計算書、信託の計算書合計表について

  • 毎年帳簿をつけ、年間3万円超の収益があったときには確定申告とは別に信託の計算書、信託の計算書合計表を作成し、1月31日までに税務署に提出する。

委託者が亡くなると家族信託は終了する

委託者=受益者というケースでは多くの場合、委託者が亡くなったときに家族信託は終了します。残った財産については、残余財産帰属先が家族信託契約書に盛り込まれているときにはそれに従い、そうでないときには相続人で協議が必要です。

まとめ

家族信託は自由度が高く複雑で、かつ長期に渡る契約です。後のトラブルを避けるためには、契約の際は専門家の手を借りることも検討しましょう。

家族信託契約書の作成代行は行政書士、家族信託契約書の作成と信託登記の代行であれば司法書士、手続きなどその後のトラブルなども含めて依頼したいときは弁護士への依頼がおすすめです。

今すぐ一括見積もりをしたい方はこちら

STEP1 お住まいの地域から探す

付近の専門家を探す

STEP2 見積り内容を選択

わかる範囲で構いません

※司法書士、行政書士、税理士など、対応可能な士業から見積が届きます