成年後見制度と家族信託|認知症の備えにはどちらを選ぶ?メリット・デメリットを比較

更新日

本記事の内容は、原則、記事執筆日(2021年1月25日)時点の法令・制度等に基づき作成されています。最新の法令等につきましては、弁護士や司法書士、行政書士、税理士などの専門家等にご確認ください。なお、万が一記事により損害が生じた場合、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。
成年後見制度と家族信託
成年後見制度と家族信託|認知症の備えにはどちらを選ぶ?メリット・デメリットを比較

平均寿命が長くなり、高齢化が進む中で、認知症は大きな問題になっています。自分の親が認知症になってしまったときには、介護の問題もありますが、口座の凍結など事務的な問題も発生するのです。

この記事では、将来の認知症に備えることができる後見制度、家族信託の2つの制度それぞれの基本や比較、どんなときにどの制度が利用できるのかについてご紹介します。

認知症に備えることができる2つの制度

成年後見制度と家族信託

高齢化が進むにつれ、認知症は大きな社会問題になっています。親が認知症になってしまうと、犯罪などに巻き込まれるリスクだけでなく、家族の生活にも影響があるのです。

口座の名義人が認知症であることが分かると、金融機関は口座を凍結します。そうなると家族は、名義人の施設の費用や治療費の支払いのためであってもお金を引き出すことはできません。

不動産を所有しているときには、さらなる問題が発生します。認知症を発症して施設に入れば、自宅へ戻る可能性は低いですから、売却したいと考えるご家族もいるでしょう。

しかし、所有者が認知症の場合には、売却の意思が確認できないので、業者は対応してくれません。売却ができないと、ご家族は不動産を管理する必要があります。不動産が傷まないようにというだけでなく、管理が不十分であることが原因で第三者に損害を与えると、賠償責任を負う可能性があるからです。

このような認知症による問題に備えられる制度として、

  1. 成年後見制度
  2. 家族信託

の2つがあります。

成年後見制度とは

認知症、知的障害、精神障害などの理由で判断能力の不十分な方々は不動産や預貯金などの財産を管理したり、身のまわりの世話のために介護などのサービスや施設への入所に関する契約を結んだり、遺産分割の協議をしたりする必要があっても、自分でこれらのことをするのが難しい場合があります。 また、自分に不利益な契約であってもよく判断ができずに契約を結んでしまい、悪徳商法の被害にあうおそれもあります。このような判断能力の不十分な方々を保護し、支援するのが成年後見制度です。

出典:法務省「成年後見制度・成年後見登記制度 Q&A」

「成年後見制度」はそれまでの「禁治産者制度」の問題点を改善し、設けられた制度です。

制度の目的は、認知症を含む、精神上の障碍を理由に、著しく判断能力が衰えた人を犯罪などから守り、生活を維持することです。そのサポートをする人が、家庭裁判所によって選任された「後見人」です。

成年後見制度には、「法定後見」と「任意後見」の2つがあります。 

法定後見制度とは

法定後見制度は、すでに判断能力が低下している人が利用できる制度で症状が重い順に

  1. 後見
  2. 保佐
  3. 補助

の3つに分かれています。家庭裁判所には

  • 本人
  • 配偶者
  • 四親等内の親族

などが申し立てることが可能です。それぞれの違いをまとめると以下のようになります。

法定後見制度の概要

後見保佐補助
対象となる方判断能力が欠けているのが通常の状態の方判断能力が著しく不十分な方判断能力が不十分な方
申立てをすることができる人本人、配偶者、四親等内の親族、検察官など 市町村長(注1)
成年後見人等(成年後見人・保佐人・補助人)の同意が必要な行為民法13条1項所定の行為 (注2)(注3)(注4)申立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める「特定の法律行為」(民法13条1項所定の行為の一部)(注1)(注2)(注4)
 取消しが可能な行為日常生活に関する行為以外の行為同上(注2)(注3)(注4)同上(注2)(注4)
成年後見人等に与えられる代理権の範囲財産に関するすべての法律行為申立ての範囲内で家庭裁判所が審判で定める「特定の法律行為」(注1)同左(注1)

(注1)本人以外の者の請求により、保佐人に代理権を与える審判をする場合、本人の同意が必要になります。補助開始の審判や補助人に同意権・代理権を与える審判をする場合も同じです。
(注2)民法13条1項では、借金、訴訟行為、相続の承認・放棄,新築・改築・増築などの行為が挙げられています。
(注3)家庭裁判所の審判により、民法13条1項所定の行為以外についても、同意権・取消権の範囲を広げることができます。
(注4)日常生活に関する行為は除かれます。

出典:法務省「成年後見制度~成年後見登記制度~」

「後見人」「保佐人」「補助人」には、家族がなれると考えている人も多いようですが、近年は、専門職後見人が選任されることが多くなっています。これにより生じる問題は、月々の報酬です。

「後見人」「保佐人」「補助人」どれも同額で、財産の総額によって変わりますが、基本報酬は月額2万~6万円です。仮に家族が選任されても、後見人を監督する成年後見(保佐・補助)監督人が選任されるケースが多く、その基本報酬は月額1万~3万円になります。

さらに不動産の売却などをおこなうと、その都度どちらも付加報酬が必要です。状況によっては専門職後見人と後見監督人の両方が選任されてしまうこともあります。

また、専門職後見人が不動産の売却をおこなうときには、家庭裁判所の許可さえあれば可能です。ですから、家族が知らないうちに実家が売却されてしまっていたということもあり得ます。

財産に関する情報開示の義務もないため、基本的には、家族が希望しても開示されることはありません

任意後見制度とは

任意後見制度は、本人に十分な判断能力があるうちに、認知症などで将来、判断力が不十分な状態になった場合に備えるための制度です。

あらかじめ家族などに、自分の生活,療養看護や財産管理に関する事務について代理権を与える契約(任意後見契約)を公証人の作成する公正証書で結んでおき、本人の判断能力が低下した後、家庭裁判所に申立てをおこない任意後見が開始される仕組みです。

任意後見契約では、後見人を誰にするかだけでなく、委任する後見事務の内容も話し合いで決定できます。ただし、任意後見人には同意権は付与できません。

なお、判断能力が衰えてしまってからでは任意後見契約を締結することはできません。

任意後見契約で必要になる費用は

  • 公正証書作成の基本手数料:1万1,000円
  • 登記嘱託手数料:1,400円
  • 登記所に納付する印紙代:2,600円

上記の通りです。ここでいう「登記」は、「成年後見登記制度」に任意後見契約の内容を「公証人」が代理で登録することを指します。

任意後見人は無報酬に設定することもできますが、任意後見監督人は後見監督人と同じく、月に1万~3万円の基本報酬と付加報酬が必要です。「お金がないから子どもに任意後見人になってもらったのに」と慌てることがないようにしましょう。

成年後見制度のメリット・デメリット

メリットについては、法定後見と任意後見で異なります。

法定後見のメリットは

  • 認知症になってしまってからも利用ができる
  • 被後見人等がおこなった法律行為を取り消すことができる
  • 財産の収支を家庭裁判所が監督する

上記のようなものです。

任意後見のメリットは

  • 自分で後見人を選ぶことができる
  • 専門家に依頼することもできる
  • 後見事務を必ず後見監督人が監督する

などです。

後見人に人数の決まりはありませんので費用はかかりますが、家族と専門家に共同でなってもらうということもできます。

また、依頼できる家族がいないという人も、任意後見制度であれば専門家を自分で選んで依頼することが可能です。

デメリットは共通しており

  • ランニングコストが高い 申し立てると被後見人等が亡くなるまで続く
  • 財産の処分は本人のためにしかできない
  • 家族が後見人等になると事務の負担が大きい

上記のようなものがあります。

施設に入っている親が認知症になったので、遠方の自宅など不動産を処分しようと後見制度を利用しても、家族の負担を減らすことは本人のためにおこなう売却ではないとして認められない可能性があります。

施設の支払いのためと理由をつけても、預貯金が十分だと却下されることもあります。

家族信託とは

「家族信託」は必ずしも認知症に備えるための制度というわけではありません。

基本的な仕組みは、「委託者」が信頼できる家族や親族である「受託者」に、自分が指定した内容の財産を託す(信託)というものです。

受託者は託された財産(「信託財産」)を管理・運用・処分して得られた利益を「受益者」のために使用します。 この仕組みを使用すると、例えば

  • 委託者=父
  • 受託者=健康な子
  • 受益者=障害のある子

とすることで、親が亡くなった後も、障害のある子の施設の費用や生活費を、健康な子が親の遺した財産を管理・運用・処分した利益で支払い続けてもらえるのです。

認知症に備えるときには、それぞれを

  • 委託者=父
  • 受託者=子
  • 受益者=父

とします。

家族信託では、受託者に対して財産を管理・運用するたけでなく、処分する権利を与えることもできますので、必要があれば受託者である子は不動産を処分することも可能です。

信託財産を売却して得られた金銭は、引き続き信託財産として管理されます。

ただし、家族信託は委託者と受託者の合意によって締結される「契約」です。そのため判断能力が著しく衰えてしまってから契約することはできません。

利用したいときには、委託者の判断能力があるうちに契約を締結してください。

家族信託の手続きの流れ

家族信託は、次のような流れで手続きをします。

  1. 目的を達成するために必要な契約内容を決める
  2. 家族信託契約書を作成する
  3. 契約書を公正証書にする
  4. 信託口口座を開設する
  5. 信託登記をする

家族信託に必要な費用

家族信託には以下のような費用がかかります。

内容費用の目安
家族信託の総合的なコンサルティング信託財産に不動産がない場合:30万円~70万円以上 信託財産に不動産がある場合:50万円~100万円以上
家族信託契約書の作成代行10万~15万円
公正証書にする3万~10万円
信託登記8万~12万円

依頼できる専門家は、行政書士や司法書士、弁護士ですが、家族信託は2007年の改正信託法施行により、財産管理の手段として注目されるようになった制度であるため、これらの専門家であってもまだ詳しくないことがあります。

無料相談などを活用し、実績があって家族信託に詳しい専門家をみつけてください。

二次相続の指定をするときの例

家族信託は「遺言書」ではできない相続の指定も可能です。「後継ぎ遺贈型の受益者連続信託」というもので、二次相続以降の相続人を指定します。

例えば、先妻との間に子がいる委託者が自宅を自分の死後(一次相続)では配偶者が相続し、配偶者が亡くなったとき(二次相続)には先妻との間の子に相続させるようなケースです。この仕組みは、事業の承継などにも利用ができます。

軽度認知症になったとき

先に述べた通り、家族信託は契約であるため、委託者の判断能力が著しく衰えてしまった後では締結できません。

しかし、軽度認知症と診断された人の中には、契約を理解するだけの判断能力や意思能力がある人もいます。そのようなときには、家族信託を利用できる可能性があります。

ただし、判断能力に関する公的な基準はないため、利用できるかどうかは個別の判断が必要です。軽度認知症になってからの契約の締結は、後から契約の無効を申立てられたときに、契約時に判断能力を有していたことの証明が大変になるので、最低でも契約書は公正証書にするようにしましょう。

また、認知症が進行してしまう前に契約書の内容を決めなければなりませんから、専門家によるコンサルティングも検討してください。

家族信託のメリット・デメリット

家族信託には次のようなメリットがあります。

  • ランニングコストが安い
  • 自由度が高い
  • 委託者の希望にあった財産管理・運用・処分の仕方を指定できる
  • 財産の承継についても指定できる

ランニングコストについては、基本的には家族が無償でおこなうので、ほとんどかかりません(委託者と受託者の同意によって、別途設定することは可能です)。

このようなメリットがある反面、家族信託にはデメリットもあります。

  • 認知度が低い
  • 事例が少ない
  • 長期的な問題が現在は不明
  • 詳しい専門家が少ない

デメリットは主に、制度が一般に利用されるようになってから日が浅いことによるものです。認知度の低さは、信託口座の開設にも影響があり、金融機関に相談に行っても対応してもらえないことがあります。

家族信託は長期にわたる契約ですが、実際に契約してから20年経った人はまだほとんどいないと思わるため、20年、30年といった長いスパンで見たときにどのような問題が起こるのかは不明です。

成年後見制度と家族信託の比較

法定後見任意後見家族信託
制度の目的保護・支援保護・支援柔軟な財産の管理・運用・処分・承継
期間後見等開始の審判~被後見人等が死亡するまで契約後、任意後見監督人選任の審判~本人または任意後見人が死亡するまで契約で定めた期間
管理する人選任された人(家族など希望を出せるが選任される保証はない)任意後見人:契約で定めた人 任意後見監督人:選任された人契約で定めた人
監督する人家庭裁判所/後見監督人任意後見監督人受益者代理人/信託監督人(ただし、両方とも任意)
権限財産管理 法律行為 身上監護権財産管理 法律行為(契約で定めた範囲内) *同意・取消権なし 身上監護権信託財産の管理・運用・処分
報酬家庭裁判所が決定する任意後見人:契約で定める 任意後見監督人:家庭裁判所が決定する信託契約の中で定めることも可、報酬条項がなければ無報酬
管理する財産の範囲財産を包括的に管理財産を目減りさせない
契約で定められた権限の範囲で運用や処分が可能
財産の管理方針財産を目減りさせない財産を目減りさせない契約で定められた権限の範囲で運用や処分が可能
居住用不動産の処分(売却)家庭裁判所の許可が必要任意後見人の判断でおこなえるが、合理的な理由がないと指摘される可能性あり契約で定められた権限の範囲で処分が可能

「身上監護権」とは、本人に代わって医療や介護に関する契約をする権利のことです。

家族信託では、この権利を契約に盛り込むことはできませんが、原則、子としての立場で同じ行為をおこなえると考えていいでしょう。

後見制度と家族信託、どちらを選べばいい?

相続財産調査 悩む

後見制度と家族信託どちらを選べばいいかという点については個々の状況によって異なり、一概にどちらが優れていて、どちらが劣っているという評価はできません。

ただし、現在の状況ややりたいことによっては、選択肢が限定されることもあります。

すでに著しく判断力が低下している

法定後見

受託者を依頼できる家族がいない

法定後見、または任意後見

自分で選んだ人に依頼したいが家族はいない

任意後見

専門家に依頼したい

任意後見

財産を運用して欲しい

家族信託

自分の指定した方法で財産を管理・運用して欲しい

家族信託

相続についても指定したい

家族信託

専門家に相談した方がいいケース

相続財産調査 専門家 依頼

後見制度は一度利用をはじめると亡くなるまで続くことになりますし、家族信託も長期にわたる契約です。

利用をする前には、十分に比較検討をして、できれば専門家にも相談した方がいいでしょう。
以下のようなケースでは専門家への依頼を検討することをおすすめします。

  • 任意後見と家族信託で迷っている
  • 後見制度の申立てを代行して欲しい
  • 後見人に自分で選んだ専門家になって欲しい
  • 家族信託のコンサルティングを受けたい
  • 家族信託契約書の作成を代行して欲しい

依頼する内容によって、相談できる専門家は変わってきますが、行政書士や司法書士、弁護士などに相談が可能です。また同じ依頼の内容であっても、依頼する士業によって料金の相場が異なります。

後見制度と家族信託のよくある疑問

後見制度と家族信託のよくある疑問とその答えをご紹介します。

Q:父が認知症になりました。どの制度が利用できますか?

すでに認知症になっているときには、法定後見制度のみ利用可能です。ただし、軽度の認知症で、契約書の内容を理解するだけの判断能力があるときには、家族信託も検討できます。

その場合は、症状が進む前に決められるように、急いで専門家に相談した方がいいでしょう。

Q:収益物件を持っているのですが、後見制度と家族信託どちらがいいでしょうか?

収益物件を持っているかどうかだけでは確実な判断はできませんが、後見制度では被後見人のためにしか預貯金などは使えなくなります。ですから、収益物件に対しても修繕はできますが、入居率を上げるために部屋をきれいにリフォームするというようなことはできません。

そのようなことを視野にいれているときには、家族信託を検討してください。

Q:受託者を依頼できるような身近な家族がいません。専門家に受託者になってもらって家族信託を利用できますか?

家族信託は、非営利が条件である民事信託のひとつです。原則、専門家を受託者にすることはできません。

法定後見では、どのような専門家が選任されるかは家庭裁判所次第です。ご自身が信頼できる専門家に依頼したいときには、任意後見で専門家に依頼するといいでしょう。

Q:後見制度は利用したくありませんが、家族信託では認知症になったときに財産を横領されてしまわないか心配です。どうすればいいでしょうか?

残念ながら、後見制度の専門職後見人でも横領が全くないわけではありません。

家族信託を利用しながら横領などの受託者の不正のリスクに備える方法としては、認知症になったときに専門家に信託監督人を依頼するような条項を契約書に入れることでしょう。ただし、当然費用はかかりますので、詳しくは直接問い合わせてください。

Q:後見人制度と家族信託、どちらが相続税を節税できますか?

まず、後見制度は、被後見人のために必要な支出と財産の維持しかおこなわれないため、相続人の利益になる相続税対策をおこなうことは原則できません。

それに対し、家族信託では二次相続以降の相続も指定できることから、相続税を節税できる可能性があります。ご自身の財産について具体的に効果があるかどうかは、家族信託に詳しい専門家に相談してください。

Q:後見制度と家族信託の両方を利用するケースはありますか?

可能性のあるケースでは、年金の信託です。年金は信託財産にしても、受益者名義の口座でしか受給できないため、自動送金で信託口口座に送金するのが一番いいのですが、金融機関によっては一定期間ごとに口座名義人が自動送金の設定をする必要があります。

そのような金融機関を利用しているときには、受益者が認知症になると送金できなくなりますので、任意後見の併用を検討してください。

まとめ

それぞれの制度には

  • 法定後見:認知症になったときに使える
  • 任意後見:自分で選んだ専門家にも依頼できる
  • 家族信託:ランニングコストが安く、契約内容も自由

という、メリットがありました。

しかし、後見制度はランニングコストが高く、亡くなるまでやめられない。家族信託は事例が少なく、将来起きる問題が現在はまだわからないというそれぞれのデメリットもあります。

制度を利用するべきか、またはどの制度が自分や家族の状況に合っているのか検討したいときには、専門家への相談も検討しましょう。特に任意後見と家族信託は判断能力があるうちでないと利用できませんので、心配な人は早めの相談がおすすめです。

今すぐ一括見積もりをしたい方はこちら

STEP1 お住まいの地域から探す

付近の専門家を探す

STEP2 見積り内容を選択

わかる範囲で構いません

※司法書士、行政書士、税理士など、対応可能な士業から見積が届きます