成年後見制度でできること!長所と短所、必要な費用から申立ての仕方まで全解説

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本記事の内容は、原則、記事執筆日(2021年1月12日)時点の法令・制度等に基づき作成されています。最新の法令等につきましては、弁護士や司法書士、行政書士、税理士などの専門家等にご確認ください。なお、万が一記事により損害が生じた場合、弊社は一切の責任を負いかねますのであらかじめご了承ください。
成年後見制度でできること
成年後見制度でできること!長所と短所、必要な費用から申立ての仕方まで全解説

社会の高齢化が進む中で、認知症や判断力の低下した方を狙った詐欺や、高額の商品・サービスを売りつけられるなどの事件に巻き込まれるケースが大きな問題になっています。このような被害から被後見人を守るのが成年後見制度です。

この記事では、成年後見制度について、法定後見制度と任意後見人制度それぞれの詳細や違い、メリット・デメリット、成年後見人を依頼する場合に必要な費用など、制度を利用するにあたって知っておきたいことをご説明します。 長文なので、目次から必要な箇所を選んでお読みください。

記事を3行で先読み!
この記事はこんな方におすすめ:
親族のため成年後見制度を検討している方。ご自身の将来が心配な方

  • 成年後見制度には、家庭裁判所が後見人を選任する法定後見制度と、自分で選んだ後見人と契約する任意後見制度の2種類がある
  • 被後見人は自分の意思で預貯金を使えない。家族が被後見人の財産を使う時も後見人の同意が必要
  • 一度利用すると多くは亡くなるまで利用することになるため、予想以上に費用がかかることも

成年後見制度の目的

成年後見人制度は、認知症や知的障害、精神障害など、判断能力の不十分な方が自らの財産を管理したり、さまざまな契約を結んだり、遺産分割協議などをおこなうのが難しい方を保護し、支援する制度です。

1999年12月8日の民法改正で「禁治産者制度(きんちさんしゃせいど)」から改められ、2000年4月1日に施行されました。

禁治産者制度との違い

禁治産者制度には、「禁治産者」と禁治産者よりも程度の軽い「準禁治産者」の2つがあり、それぞれ「被後見人」と「被保佐人」の制度に引き継がれています。

禁治産者とは、「財産を治めることができない者」という意味です。そのため、準禁治産者には浪費癖がある人も含まれています。

禁治産者制度では、制度を利用すると戸籍にそのことが記録されてしまい、多くの資格や職業などで欠格事由にされていました。判断力がないとして、選挙権もありませんでした。

このようなことから、禁治産者制度は、その名前も含め、利用する人への差別や偏見を助長するという批判があり、制度が改められることになりました。

成年後見制度では、禁治産者制度での問題点を踏まえて、より保護される人自身の意思を尊重する制度になっています。また、禁治産者制度では、重症の人だけが対象でしたが、「後見」「保佐」に加えて、禁治産者制度にはなかった「補助」が設けられたことで軽度の人も利用が可能です。

成年後見人制度の基本理念について

成年後見人制度には、3つの基本理念があります。

成年後見制度の基本理念

  1. 自己決定権の尊重
  2. 残存能力の活用
  3. ノーマライゼーション

自己決定権の尊重は、後見人が被後見人の判断能力の不足分を補いながらも、被後見人自身の意思を尊重するということです。そうでなければ、被後見人の人権が無視されてしまいます。

残存能力の活用は、判断能力が衰えている被後見人であっても、本人にできることは本人がおこなうということです。これは、被後見人の意思を尊重するということもありますが、後見人の負担を減らすためでもあります。

ノーマライゼーションは、障碍のある人たちを隔離してしまうのではなく、可能な限り社会の一員として、普通の生活ができるような環境作りをするという考え方です。隔離することで守るのではなく、できる限り社会参加はしながら、被後見人を守ることを成年後見人制度では、基本理念のひとつにしています。

このような当たり前に思えるようなことを、基本理念として掲げる理由のひとつには、成年後見人制度が拡大解釈されてしまうのを防ぐためという理由があります。

法定後見制度と任意後見制度

成年後見人
後見人制度には、すでに判断力が衰えはじめている人を法的に守る「法定後見制度」と、まだ判断力が衰えていない人があらかじめ契約し、判断力が衰えたら有効になる「任意後見制度」の2つがあります。

さらに法定後見制度は、「被後見人(保護を必要とする人)」の「事理を弁識する能力(判断能力)」の程度に合わせて、「後見」「保佐」「補助」の3つに分かれています。
それぞれの大まかな違いは以下の通りです。

法定後見制度の種類と被後見人等ができること

名称判断力の程度被後見人等ができる契約や財産の処分
後見全くない全くできない
保佐著しく欠如重要な判断は要援助/簡単な契約は可能
補助不十分契約などは可能(第三者の援助を推奨)

法定後見制度の後見人とは

後見人は、認知症や知的障害などにより、判断力が失われてしまったときに、財産管理と身上監護をおこないます。身上監護とは、被後見人の生活、治療、療養、介護などに関する法律行為をおこなうことをいいます。例えば、住居の確保、入院や施設への入居の手続きです。

後見人が選定されると、被後見人がひとりで契約などをおこなってしまったときには、後見人によって取り消すことができます(ただし、日用品の購入などは除く)。

被後見人になると、自分の意思で預貯金を使うなどの財産の処分ができなくなり、家族が被後見人のために被後見人の財産を使うようなときにも、後見人の同意が必要です。

法定後見制度の保佐人とは

保佐人は、判断能力が著しく欠如しているときに、被保佐人の財産に関する重要な法律行為を取り消したり、反対に同意したりすることで、被保佐人の財産を保護する役割をします。被保佐人は、被後見人と異なり、財産に関する重要な法律行為以外はひとりでおこなうことが可能です。

財産に関する重要な法律行為

  • 預貯金の払い戻し
  • 第三者との金銭の貸し借り
  • 第三者の借金の保証人になる
  • 不動産の購入・売却
  • 相続に関する手続きなど(民法13条1項所定の行為)

裁判所の審判によって、上記以外にも同意が必要な行為を指定することが可能です。

また、被保佐人には、原則として代理権はないため、被保佐人の代わりに契約をすることはできません。必要なときには、「保佐開始の審判」で、あらかじめ家庭裁判所に、代理権を付与してもらいます。

法定後見制度の補助人とは

補助人は、判断能力が不十分であると思われるときに、特定の法律行為に関して同意をおこないます。対象となる法律行為は、補助開始の審判を申し立てるときに、定められたものです。それ以外の法律行為については、ひとりでおこなうのに制限はありません。

補助人には同意権または、代理権、もしくはその両方が付与されます。同意権を定められた行為を、被補助人が補助人の同意なくおこなったときには、取り消すことも可能です。

特定の法律行為として同意権を付与できるもの

  • 預貯金の払い戻し
  • 第三者との金銭の貸し借り
  • 第三者の借金の保証人になる
  • 不動産の購入・売却
  • 相続に関する手続きなど(民法13条1項所定の行為)

この範囲に含まれない法的行為に同意権を定めることはできません。代理権については、内容と範囲に制限がないため、必要に応じて定めます。

法定後見人になれる人/なれない人


法定後見人は、家庭裁判所が選任しますが、希望を出すことはできます。そのようなときには、次のような人を指定できます。

法定後見人として希望できる人

  • 親族
  • 弁護士
  • 司法書士
  • 社会福祉士
  • NPOなどの法人

ただし、希望を出したとしても選ばれないこともあるので注意が必要です。

専門家に依頼をするときには、どのような援助が必要かによって決めるといいでしょう。例えば、不動産の登記とその管理が必要であれば、司法書士を選びます。身上監護が中心になるときには、社会福祉士です。

また、個人だけでなく、福祉関係の公益法人なども後見人になることができます。法定後見人になれない人は法律で決められており(欠格事由)、以下に該当する人は、法定後見人になれません。

法定後見人になれない人

  • 未成年者
  • 家庭裁判所で解任された法定後見人
  • 破産者
  • 本人に対して訴訟を起こした人、及びその配偶者と直系血族
  • 行方不明者

複数で法定後見人になるケース

法定後見人は家庭裁判所に選任されれば、人数に制限はありません。
以下のようなケースでは、複数の法定後見人が選定されています。

  • 共同で介護をしていた兄弟姉妹
  • 遠方に住んでいる子と弁護士
  • 財産管理をする弁護士と身上監護をする妻

このように、家族で分担したり、家族だけですべての事務をおこなうのが難しいときには、専門家と共同で法定後見人になることも可能です。

希望した人以外が選任されてしまったとき

審判に不服があるときには、2週間以内に不服申し立て(即時抗告)をします。しかし、「誰を後見人に選任するか」という判断に関しては、不服申し立てはできません。

希望した人が選任される可能性を高くしたい、どの程度選任される可能性があるのか知りたいといったときには、専門家に相談するのがいいでしょう。

法定後見人の申立て方法

家庭裁判所

1.法定後見人の申立てに必要な書類を揃える

  • 診断書
  • 被後見人になる人の戸籍謄本
  • 法定後見人候補の戸籍謄本
  • 法定後見人候補の住民票
  • 法定後見人候補の身分証明書
  • 法定後見人候補の成年後見登記事項証明書

「成年後見登記事項証明書」は、成年後見人などの権限を有していることや成年後見にとして登録していないことを証明するときに必要な書類です。法務局窓口や郵送、オンラインで申請が可能です。

2.裁判所から各種書類をダウンロードし作成する

作成する書類は以下になります。

  • 申立書
  • 申立事情説明書
  • 後見人等候補者事情説明書
  • 財産目録
  • 収支状況報告書
  • 親族関係図

「申立書」や各種書類は、裁判所のホームページからダウンロードが可能です。例えば東京家庭裁判所のダウンロードページはこちらです。

3.財産の内容を証明する添付書類を用意する

財産の内容を証明する書類には以下のようなものがあります。

  • 預金通帳
  • 生命保険証書
  • 年金振込通知書
  • 施設や病院の領収書
  • 固定資産税納税通知書

そのほか、状況に応じて財産、収入、支出、負債を証明する書類の原本、またはコピーを用意します。

4.手数料などを用意する

必要になる主な費用は

  • 手数料
  • 連絡用郵便切手
  • 登記手数料

です。
手数料は収入印紙で支払います。

  • 後見・保佐・補助開始の申立て 800円
  • 同意権追加付与の申立て 800円
  • 代理権付与の申立て 800円

例えば、「保佐・補助の開始申立て」をするときには、これに同意権または代理権、もしくはその両方の付与が必要になるので、

  • 保佐開始の申立て+同意権の付与=1,600円
  • 保佐開始の申立て+同意権の付与+代理権の付与=2,400円

のように、申し立てる内容で手数料が変わります。

郵便切手は家庭裁判所からの連絡用です。家庭裁判所によって金額が異なりますので、金額は、管轄の家庭裁判所のサイトなどで直接確認してください。目安としては、3,000円~5,000円になります。

登記料は、後見人の権限や個人情報を登記するためのもので、2,600円です。この費用は、住所など内容を変更するときの「変更の登記」でも、都度、必要になります。

5.家庭裁判所に書類を提出する

提出する家庭裁判所は、「被後見人になる人の住所地の家庭裁判所」です。書類を提出した後は次のような流れで進みます。

  1. 調査員による面談や親族への照会
  2. 審判
  3. 通知
  4. 法定後見開始

調査員による被後見人への面談で必要とされたときには、「鑑定」がおこなわれます。ただし、鑑定がおこなわれるケースは多くありません。

親族への照会は、後見人になることを希望している人の人柄などを確認するものです。

成年後見人の申立てができる人

後見・保佐・補助の開始の申立てができる人は以下に限られています。

  • 本人
  • 配偶者
  • 4親等内の親族
  • 成年後見人など
  • 任意後見人
  • 任意後見受任者(将来の任意後見人として契約している人)
  • 成年後見監督人(成年後見人の仕事をチェックする人)など
  • 市区町村長
  • 検察官

4親等内の親族とは、被後見人からみて次のような人たちです。

  • 子(1親等)
  • 兄弟姉妹(2親等)
  • 孫(2親等)
  • 甥、姪(3親等)
  • ひ孫(3親等)
  • 従兄弟姉妹(4親等)
  • 玄孫(4親等)

市区町村長が申立人となるケースは、被後見人に身寄りがなく、申立人となる人がいないようなときです。

診断書について

診断書は、認知症などを専門にしている医師に書いてもらう必要はありません。普段の様子を知っているかかりつけ医に書いてもらうのがいいでしょう。

そのときには、家庭裁判所が公開している診断書のひな型や最高裁判所が作成した「診断書作成の手引き」を参照のうえ、診断書を作成してもらいます。

診断書の発行にかかる費用は、医療機関によって異なりますが、数千円です。

鑑定について

被後見人との面談で、家庭裁判所が必要と判断したときには、鑑定がおこなわれます。しかし、鑑定が必要とされるケースは多くないといわれています。

費用は5万~10万円です。ただし、データによると半数以上が5万円以下となっています。
費用の支払いは、裁判所に認められれば、被後見人の財産から支払うことが可能です。

任意後見人とは

法定後見人制度が、すでに判断能力が衰え始めている人を対象としているのに対し、任意後見人制度は、認知症などで将来判断能力が衰える可能性に対して備えるものです。

任意後見人になる人には特別な資格は必要ありません。親族など被後見人が、自分で選んだ相手が同意すれば、任意後見契約によって依頼をします。任意後見契約をした人は任意後見受任者依頼した人(いずれ被後見人になる人)は任意後見委任者です。

任意後見人には、家庭裁判所によって任意後見監督人が選任されます。任意後見人は、任意後見監督人の監督のもと、任意後見契約で取り決められた事務をおこなうことで、被後見人本人の意思に従ったサポートが可能です。

法定後見人は、同意権と代理権を持っていますが、任意後見人にあるのは、代理権のみです。同意権がないということは、「契約に関して同意しない権限=取り消す権限」がないということになります。

そのため、任意後見人制度では、被後見人が自由に契約をできることがメリットのひとつですが、本人が気づかないうちに判断力が衰え、高額な商品の契約などをしてしまっても、取り消す権利がないというのがデメリットです。

任意後見人になれる人/なれない人

被後見人が依頼し、同意した相手であれば、資格などがなくとも任意後見人になれます。もちろん、弁護士や司法書士など専門家に依頼することも可能です。

ただし、以下に該当する人は、任意後見人にはなれません。

任意後見人になれない人

  • 家庭裁判所で解任された法定後見人
  • 破産者
  • 行方不明者
  • 本人に対して訴訟を起こした人、及びその配偶者と直系血族
  • 不正な行為、著しい不行跡がある人
  • その他任意後見人の任務に適しない事由がある人

任意後見契約について

成年後見人
任意後見契約は被後見人自身が十分な判断能力があるうちにおこないます。契約書は公証人が作成した公正証書でなければなりません。公正証書の作成には次の書類が必要です。

  • 任意後見委任者の印鑑登録証明書
  • 任意後見委任者の戸籍謄本
  • 任意後見委任者の住民票
  • 任意後見受任者の印鑑登録証明書
  • 任意後見受任者の住民票

すべて3ヵ月以内に発行されたものである必要があります。

任意後見契約には、各種手数料が必要です。費用は任意後見受任者の人数によってかわります。以下は、ひとりのときです。

  • 手数料 1万1,000円/契約
  • 登記手数料 2,600円
  • 登記嘱託料 1,400円
  • 正本謄本作成手数料 250円/枚
POINT
公正証書の原本・正本・謄本の違い

公正証書には、原本・正本・謄本の3つがあります。原本は、契約する人と公証人が署名・押印したものです。公証役場で保管されます。


正本は、原本の全文と申請者・作成日を明記し、公証人が署名・押印したものです。原本のコピーのようなものですが、原本と同じ効力があります。謄本も原本の全文と作成場所・作成日、公証人の署名・押印がありますが、正本のような効力はありません。

任意後見契約の解除は、任意後見の開始前であれば、いつでも可能です。解約のときも公証人に手続きを依頼します。開始後は、家庭裁判所の許可が必要です。正当な理由(病気や高齢で続けられないなど)があれば認められます。

利用形態について

任意後見契約は将来に備えたものと述べましたが、詳しくは3つの利用形態があります。

  1. 将来型
  2. 移行型
  3. 即効型

将来型は、将来、判断能力が衰えたときに任意後見を開始するものです。

移行型は、任意後見契約と合わせて財産に関する任意代理契約をします。判断能力が衰えるまでは、その契約に基づいて財産管理を委託し、判断能力が衰えたら任意後見に移行するものです。

即効型は、現在、自分で法律上の判断をする「意思能力」があるものの、何らかの理由で任意後見契約後、すぐに任意後見を開始したいときに利用します。

成年後見人にできないこと

成年後見人には、できないこととして定められている行為もあります。
具体的には以下のような行為です。

  • 日用品の購入の取り消し
  • 住居を定める
  • 婚姻・離婚の代理
  • 遺言
  • 事実行為
  • 保証人になること
  • 医療行為の同意

前半4つの行為は、本人の意思を尊重するという考えから、後見人がおこなうことはできません。婚姻・離婚の代理と同様に養子縁組・離縁、子の認知といった手続きの代理も被後見人自身がおこないます。
ただし、これらの行為が、財産を搾取する目的でおこなわれていないか、を確認するために、不自然なお金の流れなどのチェックはおこないます。

事実行為とは、食事の世話や介護など実際に面倒をみることです。これらの行為は、成年後見人の役割のひとつである身上監護(しんじょうかんご)に含まれると思われるかもしれません。しかし、身上監護は施設への入居の手続きなど専門家に依頼する手続きはしますが、実際に成年後見人が介護をすることはありません。

また、手術などの同意書についても、後見人に代理権はないので、署名・押印しても無効になります。
保証人は、入院の保証人、身元保証人などのほか、身元引受人になることもできません。

後見人の報酬について

法定後見人・保佐人・補助人(報酬は同額)の報酬は、家庭裁判所によって決定されます。基準は、管理する財産の合計額です。

管理する財産の合計基本報酬/月
1,000万円以下2万円
1,000万円超5,000万円以下3万~4万円
5,000万円超5万~6万円

管理する財産は、預貯金および有価証券などの流動資産のことを指します。合計額によって報酬が変わるのは、財産が高額になると管理が困難になるケースが多いためです。後見人の報酬は、被後見人の財産から支払われます。

後見人が報酬付与審判を申し立てると、家庭裁判所は報酬額を決定しますが、親族が後見人になるときには、この申し立てをしないことで、無償で後見人になることも可能です。

任意後見人の報酬は話し合いによって決まります。親族が任意後見人になるときの相場は0~3万円/月、弁護士や司法書士に依頼するときの相場は、3万~5万円/月です。

専門家の料金は、依頼する事務所で異なるので、直接確認してください。

付加報酬について

月々の基本報酬とは別に、「付加報酬」が支払われるケースがあります。

ひとつは、「身上監護等に特別困難な事情があった場合」に基本報酬の50%の範囲で付加されるというものです。具体的な基準は示されていませんが、「通常の事務の範囲を超えて大変な内容に対応した」ときに認められます。

もうひとつは、不動産の任意売却・遺産分割・調停など「特別の行為」をおこなったときで、相当額の報酬を付加するとされています。この付加報酬は、任意後見人でも発生します。

成年後見監督人とは

成年後見人は、同意権・代理権という大きな権限を持つため、仮に権限を乱用するようなことがあると、被後見人にとって重大な不利益につながります。そこで、成年後見人の事務を監督し、適正におこなわれていることを確認するのが成年後見監督人です。

成年後見監督人は、家庭裁判所によって選任されます。

成年後見監督人には後見人の欠格事由に該当する人に加えて、後見人の配偶者・直系血族・兄弟姉妹もなることができません。これは、関係が近すぎる人が監督人になっても、十分に役割を果たせないと考えられるからです。

基本的には、これに該当しなければ誰でもなれますが、成年後見監督人には、弁護士や司法書士、社会福祉協議会などが選任されるケースが増えています。

法定後見人の後見監督人について

法定後見人に後見監督人(保佐監督人・補助監督人も同様)を選任するかどうかは、家庭裁判所の裁量です。後見監督人を選任した理由は、書面で通知されることはありません。理由を知りたいときには、家庭裁判所に問い合わせて口頭で説明を受けます。

後見監督人が選任される理由は、

  • 管理する財産が高額である
  • 後見人が高齢また、体調に不安がある
  • 被後見人の財産状況が不明

などです。

また、被後見人と後見人が同じ人の相続人になり、遺産分割協議の必要があるときには、利害が相反するため、後見監督人が監督だけでなく、代理権を行使して代理を務めます。

任意後見人の後見監督人について

任意後見契約では、契約を締結した時点では、指名された人は任意後見受任者であり、任意後見人ではありません。では、いつ後見事務をできるようになるかというと、家庭裁判所が「任意後見監督人選任の審判」を開始したときです。つまり、任意後見制度では、必ず任意後見監督人が選任されます。
任意後見監督人の申立てができるのは以下の人です。

  • 任意後見委任者
  • 任意後見委任者の配偶者
  • 任意後見委任者の四親等内の親族
  • 任意後見受任者

申立人は、

  • 申立書
  • 任意後見契約公正証書の写し
  • 登記事項証明書
  • 診断書
  • 財産に関する資料
  • 戸籍関係の書類

など、必要書類を揃えて被後見人の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てをします。

任意後見監督人に、希望の人を推薦することもできますが、選任されるかどうかは、家庭裁判所次第です。任意後見監督人になれない人は、法定後見人の後見監督人になれない人と同じになります。

任意後見監督人も任意後見人の監督が主な職務ですが、後見人と被後見人の利害関係が相反するときには代理を務めることが可能です。

成年後見監督人の報酬について

成年後見監督人にも報酬を支払う必要があります。基本報酬は、成年後見監督人・保佐監督人・補助監督人・任意後見監督人、すべて同額です。

管理する財産の合計基本報酬/月
5,000万円以下1万~2万円
5,000万円超2.5万~3万円

監督人にも付加報酬があり、後見人と同じ、「身上監護等に特別困難な事情があった場合」の基本報酬の50%以内での付加と「特別の行為」をおこなったときの相当額の報酬を付加です。

後見人は、親族が無償で引き受けるケースがありますが、監督人は多くの場合、専門家が選任されます。そのため、成年後見人制度を利用すると、何らかの報酬は必ず発生すると考えた方がいいでしょう。

成年後見登記制度について

「成年後見登記制度」とは、成年後見人の権限や任意契約などについてコンピューター管理をしているものです。東京法務局の後見登録課が全国の後見人に関する登記事務を担当しています。

法定後見人ついては、審判が開始されたときに家庭裁判所によって登記されます。任意後見制度では、任意後見契約について登記するのは公証人です。被後見人や後見人は、住所など、登録されている情報が変わったときに「登記の変更」をします。

被後見人が亡くなったときなど、後見が終了したときにするのは「終了の登記」です。

登記されている情報は、登記官が発行する登記事項証明書によって確認できます。登記事項証明書では、登録されている後見人の情報も確認できますが、「後見人として登録されていない」ということも証明可能です。

後見人の解任について

後見人の解任については、民法第846条に「後見人に不正な行為、著しい不行跡その他後見の任務に適しない事由があるときは、家庭裁判所は、後見監督人、被後見人若しくはその親族若しくは検察官の請求により又は職権で、これを解任することができる。」と定められています。

では、具体的にどのような行為があると解任できるのでしょうか。

不正な行為は、被後見人の財産の横領をするという明らかな不正だけでなく、被後見人の財産で被後見人以外のためのもの(日用品や食品も含む)を購入したといった行為が該当します。

著しい不行跡は、財産管理事務と身上監護事務を適切におこなわなかったときです。

「そのほか後見の任務に適しない事由」は、漠然としていますが、親族が後見人となっているケースでは、被後見人と後見人の関係性が悪化してしまい、虐待をしてしまったよう場合があります。ほかにも、家庭裁判所の命令に違反したり、職務怠慢があったりしたときにも解任が可能です。

これらの事実があり、解任を希望するときには、「解任の申立」を、被後見人の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。

必要書類は、

  • 解任事由をまとめたもの
  • 解任申立書
  • 収入印紙 800円(手数料)

です。

解任の事由をまとめるときには、証拠も集めなければいけません。しかし、中には証拠をあつめるのが難しいものもあります。そのようなときには、専門家に相談してください。

成年後見人解任の申立てができる人

解任の申立てができる人は、以下の人たちです。

  • 後見監督人
  • 被後見人
  • 被後見人の六親等内の血族
  • 被後見人の配偶者
  • 被後見人の三親等内の姻族)
  • 検察官

6親等内の血族とは、例えば「昆孫(被後見人の孫のひ孫)」や「祖父母の兄弟姉妹の子」、「祖父母の甥・姪の子」のことです。

成年後見制度のデメリット

成年後見制度にもデメリットがあります。
具体的には、

  • 申立ての費用がかかる
  • 申立ての手間がかかる
  • 後見人、後見監督人への報酬がかかる
  • 親族が後見人になるときには事務の負担が大きい
  • 就けない職業がある
  • 希望していない第三者が後見人に選任されても解任するのが難しい

上記のようなものです。

申し立ての手間については、専門家に依頼することで軽減できますが、依頼のための費用が増えることになります。また、専門家が後見人、後見人監督人になったときの報酬は被後見人が亡くなるまで続きますので、大きな負担になるでしょう。

後見人への報酬を節約するために、親族が後見人になるケースも多いですが、その場合には、事務の負担が問題です。後見制度を利用すると、財産の管理が家庭裁判所の管理下になるため、日用品の買い物などもすべてレシートを残し、記録する必要があり、その量は膨大になります。

職業に関しては、これまで次のような職業で一律に欠格事由として被後見人は、就けないことになっていました。

  • 公務員
  • 士業(医師・司法書士など)
  • 法人役員(医療法人など)
  • 営業許可が必要なもの(古物商など)

しかし、これについては、「成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律」によって、一律に欠格事由とするのではなく、個別に判断することになりました。そうはいっても、「心身の故障」という基準が設けられているので、これに被後見人であることが含まれる可能性はあります。

後見人の解任は、先に述べた通り、不正や怠慢があったときには認められていますが、それ以外の理由では認められていません。

例えば、第三者の専門家が選ばれたときには、解任をされるような不正や怠慢はなくとも、態度が悪い、被後見人と気が合わないといったこともありえるでしょう。そのようなときでも、後見人を解任することはできません。

専門家に相談した方がいいケース

成年後見人
成年後見制度では、家族が成年後見人を希望するときでも、専門家に相談した方がいいケースが多くあります。

  • 書類作成の代行をして欲しい
  • 手続きを依頼したい
  • 自分で選んだ専門家に法定後見人になって欲しい
  • 家族と共同で専門家に後見人になって欲しい

家族が成年後見人になることを希望したのに、第三者の専門家が選任されてしまったケースの中には、書類に不備があり、後見人になってからの事務に不安があるというものもあります。そのような問題は、専門家に書類を作成してもらったり、確認してもらったりすることで回避が可能です。

また、後見人に専門家を推薦するケースでは、希望通りに選任されることが多いので、全く知らない人が選任されてしまうよりも、自分で選んだ専門家に依頼できる方が安心な場合もあるでしょう。

申立ての手続きを専門家に依頼した場合の相場は、司法書士が相談料:5,000円/時間+基本費用:3万円+15万~20万円前後(補助・保佐・後見で異なる)です。弁護士の場合は、21万円程度ですが、依頼する事務所によって異なるので直接確認してください。

成年後見人制度に関するよくある疑問

成年後見人制度に関するよくある疑問とその答えをご紹介します。

Q:後見人になるのは誰ですか?

法定後見人は、希望を出して家庭裁判所に選任されればその人がなります。家庭裁判所が、希望している人をがふさわしくないと考えたときは、家庭裁判所が選任した弁護士などの専門家です。任意後見人は被後見人になる人が、依頼して同意のうえ、契約した人がなります。

Q:認知症の父の成年後見人に兄と自分の2人でなることはできますか?

法定後見人は、希望を出して選任されれば可能です。過去には兄弟など複数の家族が選任されている事例もあります。任意後見人は、本人が元気なうちに任意後見契約をすれば可能です。

Q:成年後見制度を利用できるのは認知症や精神障害、知的障害だけですか?

事故や病気で長期間意識がない人に相続問題が起きたようなときにも利用可能です。例えば、ある人が脳梗塞などで長く意識不明の状態になり、その間に相続の問題が発生したケースになります。ただ相続するだけなら手続きは必要ありませんが、残された財産に多額の借金があって相続放棄をしたいようなときには、配偶者が成年後見人になることで手続きが可能です。

Q:成年後見制度を利用すると選挙権がなくなるのですか?

禁治産者制度では、選挙権がなくなりましたが、後見人制度では、被後見人の選挙権はなくなりません。

Q:未成年の子を任意後見人にすることはできますか?

任意後見人であれば可能です。法定後見人にはなれません。

Q:申立てのときに提出する診断書は特別な病院でないと書いてもらえませんか?

診断書を書くのはどの病院の何科の医師でも構いません。手引きにしたがって書いてもらってください。普段の様子をよくわかっているかかりつけ医に依頼するのがいいのではないでしょうか。

Q:選任された後見人と被後見人が不仲です。解任できますか?

後見人の解任が認められるのは不正などの理由だけです。不仲を理由に解任することはできません。

Q:後見人に入院の保証人になってもらえますか?

後見人は、入院の手続きをすることはできますが、保証人になることはできません。

Q:父の後見人になっていますが、預貯金が多く管理が大変なので、お金の管理だけ専門家に頼めませんか?

「成年後見支援信託制度」が利用できます。利用する財産の目安としては流動資産500万円以上です。銀行によっては、1000万円以上と独自に基準を設けていることもあります。

Q:後見制度ではさまざまな制限があるので、ほかの方法で財産の管理だけできませんか?

後見制度と比較される制度に家族信託があります。この制度は、信頼できる家族に財産を管理してもらうものです。家族信託には、成年後見制度との違い、管理する家族に身上監護の義務と権限はありません。権限が必要な状況になったら、成年後見人を選任してもらうことになります。

Q:被後見人の財産がなくなったら、後見人への報酬はどうやって支払うのですか?

法定後見人の場合は、扶助の制度や支援事業で支払われることがあります。自治体に問い合わせてください。

Q:成年後見制度はいつまで続くのですか?

認知症など、病状の改善が見込めないときには、被後見人が亡くなったら終了です。終了すると、後見人は、「終了の登記」や家庭裁判所に財産目録の提出などをします。

まとめ

成年後見人の制度は、認知症などで判断能力が衰えてしまったときに、財産や生活に関わる法的な行為を後見人が代わりにおこなうことで、被後見人を守る制度です。

リットの多い制度ですが、手続きや費用、後見人になった人の負担などデメリットも十分に理解したうえで利用するべき制度でもあります。成年後見人制度とほかの制度で迷っているときや自分で手続きするのが難しいときには、専門家に相談してください。

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